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藤沢周平
1927年、鶴岡市に生まれる。山形師範学校後、湯田川中学校に赴任したが、肺結核が見つかり休職。6年間の療養生活の後に業界新聞の記者となる。63年ごろより小説を書き始め、71年に『溟い海』で第38回オール讀物新人賞を受賞、本格デビューした。73年「暗殺の年輪」で第69回直木賞を受賞。主要な作品として「蝉しぐれ」「三屋清左衛門残目録」「一茶」「隠し剣狐影抄」「隠し剣秋風抄」「短篇傑作選」(全4冊)「霧の果て」「海鳴り」「白き瓶 小説長塚節」(85年に吉川英治文学賞)など多数。94年に朝日賞、第10回東京都文化賞の2賞を受賞。「藤沢周平全集」(全23巻文藝春秋刊)がある。95年に紫綬褒章、97年1月肝不全により死去、享年69。山形県民栄誉賞(3月8日受賞)。江戸時代を題材とした作品を多く残した。中でも出身地にあった庄内藩をモチーフにしたと言われる架空の藩「海坂藩(うなさかはん)」を舞台にした作品は有名である。代表作と言われる「蝉しぐれ」は、詩情溢れる名品。他に、「暗殺の年輪」「隠し剣孤影抄」「風の果て」がある。「用心棒日月抄」の東北小藩も海坂藩と思われる。
- 暗殺の年輪(自選傑作時代小説八篇)(71-73年オール読物他、78文春文庫)
- 又蔵の火(72-73別冊文藝春秋、オール読物他、84文春文庫)
- 逆軍の旗 (73-76別冊小説新潮他、76青樹社、85文春文庫)
- 雲奔る 小説・雲井龍雄(74別冊文藝春秋、75文藝春秋、82文春文庫)
- 闇の梯子(74小説新潮、小説現代、別冊文藝春秋、オール読物、74文藝春秋、87文春文庫)
- 喜多川歌麿女絵草子(75オール読物、77青樹社、82文春文庫)
- 暁のひかり(74-75小説現代、問題小説他、79光風社、86文春文庫)
- 夜の橋(75-78年小説宝石、現代他、81年中央公論社、84年中公文庫、93年14版)
- 雪明かり(73-76別冊小説現代、小説現代、79年講談社文庫、93年第26刷)
- 竹光始末(74-76小説現代、小説新潮、小説宝石他、76立風書房、81新潮文庫、04同59刷)
- 時雨のあと(75-76週間小説、小説現代他、76立風書房、82新潮文庫、04同45刷)
- 義民が駆ける(76年中央公論刊、80年中公文庫、98年講談社文庫、00年 同第5刷)
- 一茶(77別冊文藝春秋、78文藝春秋、81同文庫)
- 回天の門(77.2〜11高知新聞、79文藝春秋、86文春文庫)
- 隠し剣狐影抄(76-78オール読物他、81文藝春秋、83文春文庫)
- 用心棒日月抄(もうひとつの忠臣蔵)(78年新潮社刊、81年同文庫、03年63刷)
- 春秋山伏記(78年家の光協会、84年新潮文庫、96年25刷)
- ふるさとへ廻る6部は(75〜79小説新潮、93文藝春秋版藤沢周平全集第23巻、95新潮文庫)
- 隠し剣秋風抄(78-80オール讀物、81文藝春秋、84文春文庫、99同31刷)
- 闇の傀儡師(上・下)(78.8〜79.8週間文春、80文藝春秋、84文春文庫)
- 霧の果て 神谷玄次郎捕物控(75-80小説推理『神谷玄次郎捕物控』、80双葉社『出合茶屋』、85文春文庫、99同26刷)
- よろずや平四郎活人劇(上・下)(80.10〜82.11オール読物、83文藝春秋、85文春文庫)
- 消えた女(79年立風書房、83年新潮文庫、97年第32刷)
- 孤剣 用心棒日月抄(80年新潮社刊、84年同文庫)
- 橋ものがたり(80年実業之日本社、83年新潮文庫、97年31刷)
- 驟り雨(80年青樹社、85年新潮文庫、02年第36刷)
- 春秋の檻 獄医立花登手控え(1)(80年講談社文庫、02年同新装版)
- 風雪の檻 獄医立花登手控え(2)(80年小説現代、83年講談社文庫、02年第45刷)
- 霜の朝(81年青樹社、87年新潮文庫)
- 闇の歯車(81年講談社文庫、02年同43刷)
- 日暮れ竹河岸(81.3〜82.2文藝春秋、91別冊文藝春秋、96単行本、00文春文庫)
- 愛憎の檻 獄医立花登手控え(3)(81〜82年小説現代初出、84年講談社文庫、98年同32刷)
- 漆黒の霧の中で(82年新潮社、86年新潮文庫)
- 密謀(上・下)(82年新潮社、85年新潮文庫、97年同33刷他)
- 人間の檻 獄医立花登手控え(4)(82〜83年小説現代、85年講談社文庫、95年27刷)
- 海鳴り(上・下)(82.7〜83.7信濃毎日夕刊、84文藝春秋、87文春文庫)
- 刺客 用心棒日月抄(83年新潮社、87年同文庫、99年40刷)
- 龍を見た男(83年青樹社、87年新潮文庫、00年第32刷)
- 風の果て(上・下)(83.10〜84.8週間朝日、88文春文庫)
- 花のあと(83.12問題小説、83.8、85.3、11オール読物、85.2〜3週間小説、74.4太陽、84.2小説宝石、85青樹社、89文春文庫)
- 決闘の辻 藤沢版新剣客伝(81〜85年小説現代、85年講談社、88年講談社文庫、93年10刷)
- ささやく河(85年新潮社、88年新潮文庫、04年第43刷)
- 蝉しぐれ(86.6〜87.4秋田魁新報、88文藝春秋、91文春文庫)
- 本所しぐれ町物語り(87年新潮社、90年同文庫、00年32刷)
- たそがれ清兵衛(88年新潮社、91年同文庫、03年46刷)
- 麦屋町昼下がり(87.6〜89.1オール読物、92文春文庫)
- 三屋清左衛門残目録(85〜89別冊文藝春秋、92年同文庫)
- 玄鳥(86.8文学界、89.6〜90.6オール読物、90.3文藝春秋、91文藝春秋、94同文庫)
- 夜消える(83.1〜90.3週間小説、90.10小説宝石、94文春文庫)
- 凶刃 用心棒日月抄(91年新潮社、94年同文庫、99年16刷)
- 市塵(上・下)(91年講談社文庫、93年4刷)
- 秘太刀馬の骨(90.12〜92.10オール読物、95文春文庫)
- 天保悪党伝(92年角川書店、93年角川文庫、01年新潮文庫)
- 漆の実のみのる国(上・下)(93.1〜96.7文藝春秋、97.5単行本)
- 静かな木(93〜96年週刊新潮、小説新潮、98年新潮社、00年新潮文庫、03年10刷)
雲奔る 小説・雲井龍雄
米沢藩士・雲井龍雄。安井息軒の三計塾きっての俊才と謳わる。やがて幕末狂乱の嵐は奥羽列藩に及び、会津鎮撫の挙に出た薩摩に、龍雄は激しく憤り、「討薩ノ檄」を懐に奔走する。薩賊の兵、東下以来、侵掠せざる地なく、鶏牛をぬすみ、婦女に淫し……。討薩ひとすじに二十七歳の短く激しい生を生きた悲劇の志士を描く異色長篇!(75年文藝春秋、82年文春文庫、90年第3刷)
喜多川歌麿女絵草子
寛政三年.蔦屋刊行の山東京伝の手になる酒落本が発禁処分を受けた。歌麿は、取締りの外に置かれた役者絵の注文を受けるべきか考えていた…。稀代の浮世絵師・喜多川歌麿、好色漢の代名詞とされるが、その実人生は意外に愛妻家の一面も持ち、まさに正体が知れない。この著者独自の手法と構成で描き出される人間・歌麿の貌!(75年オール読物、77年青樹社、82年文春文庫、90年第4刷)
義民が駆ける
老中水野忠邦の指嗾による三方国替え。越後長岡転封の幕命に抗し、羽州荘内領民は「百姓たりといえども二君に仕えず」の幟を掲げて大挙して江戸にのぼり幕閥に強訴、ついに将軍裁可を覆し、善政藩主を守り抜く。天保期荘内を震憾させた義民一揆の始終。(76年中央公論刊、80年中公文庫、98年講談社文庫、00年同第5刷)一茶
稀代の俳諧皆帥・一茶。親密さと平明。典雅の気取りとは無緑の独自の世界を示したその句。およそ俳聖という衣裳はふさわしくない。しかし全発句、生涯二万。尋常ならざる風狂の人か。さらに一茶は遺産横領人の汚名すら残し、俗事にたけた世間師の貌をも持つ。陰影にみちたこの俳人の生涯を描く渾身の力作長篇。解説・藤田昌司(別冊文藝春秋139〜142号、78年文藝春秋、81年同文庫、90年第9刷)
春秋山伏記
羽黒山からやって来た若き山伏と村人とのユーモラスでエロティックな交流…荘内地方に伝わる風習を小説化した異色の時代長編。(78年家の光協会、84年新潮文庫、96年25刷)ふるさとへ廻る6部は
「ふるさとへ廻る六部(巡礼)は気の弱り」これは、山形出身の著者が初めて青森、秋田、岩手へ旅したときの気持を、やや自嘲的に表現した古川柳。だが言葉とはうらはらに、この旅は東北人である自分の根を再確認する旅だった。庄内地方への郷愁、変貌する故郷への喪失感、時代小説へのこだわりと自負、創作の秘密、そして身辺・自伝随想等を収めた文庫オリジナル・エッセイ集。(93年文藝春秋版藤沢周平全集第23巻、75〜79年年小説新潮、95年新潮文庫)闇の傀儡師(上・下)
(上)筆耕稼業で気儘に暮らす御家人くずれの鶴見源次郎は,ひょんなことから深手を負った公儀穏密をたすけ,松平家へ宛てた密書を註される。紙片には「八は田に会す,ご用心」とある。田とは老中・田沼意次。そして八とは八獄党。それは幕府を怨み連綿と暗躍をつづける迷の徒党であった。伝奇小説風の色彩あざやかな本格時代小説。(80年文藝春秋から単行本、84年同文庫、04年30刷)(下)とおく慶安の昔から将軍職継承に絡み不穏な動きをつづける謎の集団・八嶽党。右近将監とその闇の徒党との争いは日々熾烈な展開をみせ、鶴見源次郎の身辺も次第に血の匂いにみちてくる。そしてついに、世子・大納言家基が奇怪な最後をとげる。毒殺説が流布され、激昂した将監は田沼を激しく追及するのだが・・・。解説・清原康正、カバー・蓬田やすひろ。(80年文藝春秋から単行本、84年同文庫、95年19刷)
よろずや平四郎活人劇(上・下)
(上)神名平四郎。知行千石の旗本の子弟、しかし実質は、祝福されざる冷や飯食い、妾腹の子である。思い屈し、実家を出奔、裏店に棲みついたまではよいのだが、ただちに日々のたつきに窮してしまう。思案の揚句、やがて平四郎は奇妙な看板を揚げる。……喧嘩五十文口論二十文、とりもどし物百文、よろずもめごと仲裁つかまつり候。カバー・鴨田幹、(83年文藝春秋刊、85年同文庫、92年同15刷)(下)世にもめごとの種はつきぬとはいえ、依頼主のもち込む話は多彩をきわめる。中年夫婦の離縁話、勘当息子の連れもどし、駆け落ち娘の探索等々。武家とちがい、万事気儘な裏店にも、悲哀にみちた人生絵図がある。円熱期にあるこの作家の、代表的短篇連作シリーズ、愈々桂境。人の姿、世の姿の哀切な陰影を、端正に写し出す話題作。解説・村上博基、カバー・鴨田幹。(83年文藝春秋刊、85年同文庫)
橋ものがたり
様々な人間が日毎行き交う江戸の橋を舞台に演じられる、出会いと別れ。男女の喜怒哀楽の表情を瑞々しい筆致に描く傑作時代小説。(80年実業之日本社、83年新潮文庫、97年31刷)驟り雨
激しい雨の中、1人の盗っ人が八幡さまの軒下に潜んで、通り向いの問屋の様子を窺っていた。その眼の前へ、入れかわり立ちかわり雨やどりに来る人々。そして彼らが寸時、繰り広げる人間模様−−。表題作「驟り(はしり)雨」をはじめ。「贈り物」「遅いしあわせ」など、全10編を収める。抗いきれない運命に翻弄されながらも江戸の町に懸命に生きる人々を、陰翳深く描く珠玉の短編集。(80年青樹社、85年新潮文庫、02年第36刷)風雪の檻 獄医立花登手控え(2)
登と同じ鴨井道場の三羽烏のひとり新谷弥肋の身に,いったい何が起こったのか。道場に行くと言って家を出るが,実は深川の地回りの男たちと飲み回つているという。弥肋の行方を追う登の前に立ちはだかる悪。その背後に見えかくれする弥肋の影−−。獄医立花登が人情味豊かに事件を解く好評シリーズ第二弾。(80年小説現代、83年講談社文庫、02年第45刷)霜の朝
文化の日、近くの里山に行こうかと思ったが、どうも気分が乗らないので映画館へ。その合間に藤沢周平の短篇集を1冊・・・。天に駆けのぼる龍の火柱のおかげで、見失った方角を知り、あやうく遭難を免れた漁師の因縁(表題作「龍を見た男」)。駆落ちに失敗して苦界に沈んだ娘と、幼な馴染で彼女をしたう口がきけない男との心の交流(「帰って来た女」)。絶縁しながらも、相手が危難の際には味方となって筋を通す両剣士の意地(「切腹」)。その後、市井の人々の仕合せと喜怒哀楽を描いて卓越な技量を示す傑作時代小説集。(08/11/3)その財力を賭けて粋を競った相手の紅ノ国屋文左衛門は、悪銭廃止令によって没落した。勝ち残った奈良屋茂左衛門の胸を一陣の風が吹き抜けていった。紀文と共に一つの時代が過ぎていったようだ…(表題作「霜の朝」)ほかに、若い武家夫婦の無念を晴らす下男の胸中(「報復」)や、意に添まぬ結婚をした女のあわれ(「歳月」)等、人の心に潜む愛と孤独を、円熟した筆に綴った時代小説傑作集。(83年青樹社、87年新潮文庫、00年第32刷)
闇の歯車
屈託ありげに黙々とのむ常連。浪人に遊び人,老隠居に商家の若旦那。そしてこの四人につきまとう謎の男。やがて男たちは夕闇に消えていった。誰が操るのか,皮肉なさだめに人を引きこむ闇の歯車が回る。−−押し込み強盗をはかった男達と,それぞれに関わる女達の数奇な人生を描いたサスペンス時代長編。(81年講談社文庫、02年同43刷)愛憎の檻 獄医立花登手控え(3)
御存じ小伝馬町の青年獄医立花登シリーズ第3弾。娘の重病を治してもらったお礼にと、登に未解決の3年前の一家7人殺しの情報をもらした、入牢中の鋳かけ屋喜吉が殺された。牢の中に兇悪な殺人者が・・・犯人を追って江戸の町を駆ける登(「奈落のおあき」)。起倒流の柔術の技と推理が冴える話題の連作集。解説・岡庭昇、カバー・小沢良吉。(81〜82年小説現代初出、84年講談社文庫、98年同32刷)密謀(上・下)
(上) 織田から豊臣へと急旋回し、やがて天下分け目の“関が原”へと向かう戦国末期は、いたるところに策略と陥穽が口をあけて待ちかまえていた。謙信以来の精強を誇る東国の雄・上杉で主君景勝を支えるのは、20代の若さだが、知謀の将として聞こえる直江兼続。本書は、兼続の彗眼と彼が擁する草(忍びの者)の暗躍を軸に、戦国の世の盛衰を活写した、興趣尽きない歴史・時代小説である。(82年新潮社、85年新潮文庫、97年同33刷)(下) 秀吉の遺訓を次々と破って我が物顔の家康に対抗するため、兼続は肝胆相照らす石田三成と、徳川方を東西挟撃の罠に引き込む密約をかわした。けれども、実際に三成が挙兵し、世をあげて関ヶ原決戦へと突入していく過程で、上杉勢は遂に参戦しなかった。なぜなのか・・・。著者年来の歴史上の謎に解明を与えながら、綿密な構想と壮大なスケールで描く渾身の戦国ドラマ。(82年新潮社、85年新潮文庫)
海鳴り(上・下)
(上)はじめて白髪を見つけたのは、いくつのときだったろう。骨身をけずり、果てにむかえた四十の坂。残された日々は、ただ老い朽ちてゆくばかりなのか。……家は闇のように冷えている。心通じぬ妻と、放蕩息子の跡収りと。紙商・小野屋新兵衛は、やがて、薄幸の人妻丸子屋のおかみおこうに果せぬ想いをよせてゆく。世話物の名品。(82〜83年信濃毎日夕刊、84年文藝春秋刊、87年同文庫、97年同14刷)(下)このひとこそ……生涯に真の同伴者。男が女にえがく夢は、底知れず貧欲なのである。小野屋新兵衛は、人妻・おこうとの危険な逢瀬に、この世の仄かな光を見出だした。しかし、闇はさらにひろくそして深いのだ。悪意にみち奸計をはりめぐらせて…。これこそ藤沢調として、他の追随をゆるさぬ人情物語の名品!解説・丸元淑生、カバー・北沢知己。(82〜83年信濃毎日夕刊、84年文藝春秋刊、87年同文庫、00年同19刷)
龍を見た男
天に駆けのぼる龍の火柱のおかげで、見失った方角を知り、あやうく遭難を免れた漁師の因縁(表題作「龍を見た男」)。駆落ちに失敗して苦界に沈んだ娘と、幼な馴染で彼女をしたう口がきけない男との心の交流(「帰って来た女」)。絶縁しながらも、相手が危難の際には味方となって筋を通す両剣士の意地(「切腹」)。その後、市井の人々の仕合せと喜怒哀楽を描いて卓越な技量を示す傑作 時代小説集。(83年青樹社、87年新潮文庫、00年第32刷)風の果て(上・下)(1983-84)
『風の果て』(かぜのはて)は、藤沢周平による日本の長篇時代小説である。また、同作を原作とした同名のテレビドラマが制作された(NHK「木曜時代劇」枠で2007、全8回)。収録は2007年5月から7月にかけて緑山スタジオおよび茨城県をはじめとする近郊ロケによって行われた(公式ホームページより)。(上)某藩首席家老・桑山又左衛門が、政敵杉山忠兵衛に勝利して藩政の実権を握った後、野瀬市之丞から果たし状が届いた。野瀬も杉山も、かつては片貝道場で研鑽した仲間であった。又左衛門は、野瀬が果たし合いを望んだ意味を慮りながら、若い頃から今に至るまでの長い道のりを思い起こすのであった。かつては同じ部屋住み・軽輩の子、同門・片貝道場の友であるが、市之丞は今なお娶らず禄喰まぬ"厄介叔父"と呼ばれる五十男。……歳月とは何か、運とは非運とは? 運命の非情な饗宴を隈なく描く、武家小説の傑作!カバー・蓬田やすひろ。(85年朝日新聞、88年文春文庫、93年5刷)
(下)かつての軽輩の子は家老職を占めるに至る。栄耀きわめたとはいえ執政とは孤独な泥の道である。策謀と収賄。権力に近づいて腐り果てるのがおぬしののぞみか、市之丞は面罵する。又左衛門の心は溟い、執政などになるから友と斬り合わねばならぬのだ……。逼迫財政打開として荒地開墾の鍬はなお北へのびている。解説・皆川博子(85年朝日新聞、88年文春文庫、04年21刷)
花のあと
娘ざかりを剣の道に生きたたある武家の娘。色白で細面、けして醜女ではないのだが父に似て口がいささか大きすぎる。そんな以登女にもほのかに想いをよせる男がいた。部屋住みながら道場随一の遣い手江口孫四郎である。老女の昔語りとして端正にえがかれる異色の表題武家物語のほか、この作家円熟期の秀作七篇! 解説・桶谷秀昭(74〜85年問題小説、オール読物、週間小説、太陽、小説宝石、85年青樹社から単行本、89年文春文庫、90年第3刷)
蝉しぐれ
朝、河のほとりで蛇に咬まれた隣家の娘をすくう場面からはじまるこの物語、舞台は藤沢読者にはなじみ深い海坂藩ということもあり、2番目の購入となった。初出は、藤沢ゆかりの地方紙、山形新聞夕刊で86〜87年に連載、88年文藝春秋刊、91年同文庫、04年同43刷と本作の人気の高さが伺える。清流と木立に囲まれた城下組屋敷。淡い恋、友情、そして悲運と忍苦。ひとりの少年藩士が成長してゆく姿をゆたかな光のなかで描いたこの作品は、名状しがたい哀惜をさそわずにおかない。解説・秋山駿、カバー・蓬田やすひろ。(山形新聞夕刊で86〜87年に連載、88年文藝春秋刊、91年同文庫、04年同43刷)
本所しぐれ町物語り
浮気に腹を立てて実家に帰ってしまった女房を連れ戻そうと思いながら、また別の女に走ってしまう小間物屋。大酒飲みの父親の借金を、身売りして返済しようとする十蔵の娘。女房としっくりいかず、はかない望みを抱いて20年ぶりに元の恋人に会うが、幻滅だけを感じてしまう油屋。一見平穏に暮らす人々の心に、起こっては消える小さな波紋。川や掘割からふと木が匂う江戸庶民の町…。表通りの商人や裏通りの職人など市井の人々の微妙な心の揺れを味わい深く描く連作長編。解説に代えて作者/藤田昌司「対談藤沢文学の原風景」収録、カバー・蓬田やすひろ。(87年新潮社、90年同文庫、00年32刷)麦屋町昼下がり
不伝流の俊才剣士・片桐敬助は、藩中随一とうたわれる剣の遣い手号削新次郎と、奇しき宿命の糸にむすばれ対峙する。男の闘いの一部始終を緊密な構成、乾いた抒情で鮮烈に描き出す表題秀作の他、円熟期をむかえたこの作家の名品を三篇。時代小説の芳醇・多彩な味わいはこれに尽きる、と評された話題の本!(92年文春文庫、95年第8刷)
夜消える
酒びたりの父親が嫁入りの邪魔になると娘に泣きつかれた母親(『夜消える』、83年週間小説)、岡場所に身を沈めた幼馴染と再会した商家の主人(『にがい再会』、86年週間小説)、5年ぶりにめぐりあった別れた夫婦、夜逃げした家族に置き去りにされた寝たきりの老婆(『踊る手』、88年週間小説)・・・江戸の庶民の哀歓を描く7篇。解説・駒田信二(94年文春文庫、99年第10刷)
秘太刀馬の骨
北国の藩、筆頭家老暗殺につかわれた幻の剣「馬の骨」。下手人不明のまま六年、闇にうもれた秘太刀探索を下命された半十郎と銀次郎は藩内の剣客ひとりひとりと立合うことになる。やがて秘剣の裏に熾烈な執政をめぐる暗闘がみえてくる。藤沢時代小説の隠れた傑作と称されるゆえんを充分にお愉しみ下さい。解説・出久根達郎、カバー・蓬田やすひろ。(95年文春文庫、99年同10刷)