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船戸与一
山口県下関市に生まれる。山口県立下関西高等学校、早稲田大学法学部卒業。在学中は探検部(第三期生)に所属(先輩には西木正明らがいる)。アラスカのエスキモーを訪問し、本名で共著『アラスカ・エスキモー』を刊行した。小学館、祥伝社などの出版社勤務を経てフリーになり、執筆活動を始める。1979年『非合法員』(講談社)で冒険小説家としてデビュー。
- 群狼の島 双葉ノベルス 1981.6 のち角川文庫、徳間文庫
- 夜のオデッセイア 徳間ノベルス 1981.7 のち文庫
- 蛮賊ども 角川ノベルズ 1982.4 のち文庫、徳間文庫
- 山猫の夏 講談社 1984.8 のち文庫
- カルナヴァル戦記 講談社 1986.4 のち文庫
- 緑の底の底 中央公論社 1989.10 のち文庫、徳間文庫
- メビウスの時の刻 中央公論社 1989 のち文庫
- 砂のクロニクル 毎日新聞社 1991.11 のち新潮文庫
- 蝦夷地別件 新潮社 1995.5 のち文庫
- かくも短き眠り 毎日新聞社 1996.6 のち角川文庫、集英社文庫
- 流沙の塔 朝日新聞社 1998.5 のち文庫、新潮文庫、徳間文庫
- 虹の谷の五月 集英社 2000.5 のち文庫
- 三都物語 新潮社 2003.9 のち文庫
- 満州国演義1 風の払暁 週間新潮 2005.7-2006.9のち新潮社 2007.4
- 満州国演義2 事変の夜 週間新潮 2005.7-2006.9のち新潮社 2007.4
- 満州国演義3 群狼の舞 新潮社 2007.12
- 満州国演義4 炎の回廊 新潮社 2008.5
- 満州国演義5 灰塵の暦 新潮社 2009.1
- 満州国演義6 大地の牙 新潮社 2011.4
- 満州国演義7 雷の波涛 新潮社 2012.6
蝦夷地別件
「蝦夷地別件」は、アイヌ民族の存亡をかけて戦う男たちと、その過酷な運命を描いた話。歴史的には「クナシリ・メナシの戦い」といわれ、百科辞典には次のようにあった。1789年(寛政1)5月、国後島と目梨(北海道根室支庁管内)のアイヌが、この地域の和人を襲い70人余を殺害した事件。この地域の支配権にもかかわる事件であり、ロシア人がアイヌを動かしているという風説もあり緊張をよんだ。場所請負人飛騨屋久兵衛の権利のもとに置かれたこの地域では、過酷なアイヌ使役が行われていた。毒殺などの脅迫で魚肥製造に駆り立て、越冬食糧の準備の暇も与えないほどに使役し、報酬もきわめて少なく、アイヌの生活は飢餓に瀕していた。アイヌ女性に対する乱暴な行為も目だち、不満が高まるうちに、アイヌが運上屋の酒食により毒殺されたとの風説が広まり、大きな蜂起となった。松前藩の兵力の前にアイヌ側は恭順の態度で臨んだが、37人死刑という過酷な処分が行われた。以後、この地域における和人側の支配体制が確立していった。〈田端 宏〉。根室市のHP上でも詳しく紹介されていた。http://www.city.nemuro.hokkaido.jp/dcitynd.nsf/0/33197DE2B06DF02049257124002A5A00?OpenDocument
ちょうど、帯状疱疹に罹り切ない日々であったが、アイヌの痛みを感じながら読み終えた。(12/10/8)
上巻:18世紀末、蝦夷と呼ばれるアイヌ民族は和人の横暴に喘いでいた。蝦夷地での交易権を松前藩から買い取った商人たちによる苛烈な搾取、問答無用の暴力、日常茶飯に繰り返される女たちへの陵辱。アイヌの怒りと悲しみは沸点に達しようとしていた。北の大地から和人を追い払うための戦いを決意した国後の脇長人ツキノエが、密かに手配した鉄砲300挺。120年前に決起した英雄シャクシャインも、和人に負けない武器を持っていたら、戦いに勝利していたはずだった。鉄砲調達の算段は、択捉で出会ったロシア人船長との間でまとまった。しかし、その裏側には、ロシアの地で祖国奪還のために奔走するポーランド貴族マホウスキの策略があった。ロシアの南下政策を阻止すべく、極東に関心を向けさせるための紛争の創出。300挺の鉄砲がその引き金となるはずだった。
一方、和人のあいだでも、老中・松平定信のもと蝦夷地を直轄地にしようと目論む幕府と、権益を死守しようとする松前藩の思惑が入り乱れていた。それぞれの思いを巻き込んで蝦夷地に渦巻く歴史のうねり。アイヌ民族最後の蜂起「国後・目梨の乱」を壮大なスケールで描きだす超大作。
中巻:国後を暗い影が覆った。長く患っていた惣長人サンキチが、ついに幽境に旅立ったのだ。和人からもらった薬を飲んだ直後の死だっただけに、毒殺の噂がまことしやかに囁かれ始める。――惣長人は和人に殺された。主戦派の若き長人ミントレを先頭に、和人との戦いを叫ぶ声が一気に高まるなか、鉄砲がなければ和人と戦うべきではないとする脇長人ツキノエの主張は次第に掻き消されがちになっていく。サンキチの歳の離れた弟で、妻とお腹の子も和人に殺されたマメキリ、さらにはツキノエの息子セツハヤフまでもが主戦論へと傾き、彼ら若い世代の長人たちによって、ツキノエの惣長人への就任は見送られることになった。ロシアからの鉄砲300挺はまだ届かない……。その頃、かの地で鉄砲の調達に奔走していたマホウスキは、頼みの後ろ盾を失ったばかりか、自らも皇帝特別官房秘密局に捕らえられ獄中に繋がれてしまっていたのだ。一方、国後ではある男の暗躍が続いていた。アイヌの和人に対する怒りを煽り、蜂起を促そうとする男の狙いとは? そして彼を動かしている人物とは? そんななか、若き長人たちはツキノエを択捉へ赴かせ、その間に事を起こそうと動き始める。
下巻:ついに国後で始まった和人との戦い。蝦夷地全土に渦巻く不満、すべてのアイヌが抱える悲憤――。自分たちが立ち上がれば、厚岸、忠類、野付嶋など各地のアイヌが次々に後に続くと信じて起こした戦いだった。しかし、アイヌ民族の一斉蜂起という願いは叶わず、叛乱に立ち上がったのは、国後と忠類のほか目梨地方のわずかな地点にとどまった。そこへ新井田孫三郎率いる松前藩の鎮撫軍が、大砲さえ擁する圧倒的な装備で鎮圧に迫る。さらには厚岸の惣長人イコトイが、自分の地位の安泰を図って鎮撫軍に擦り寄る動きさえ見せはじめた。もはや勝ち目はなくなった。負けを覚悟で徹底抗戦を続けても、それは厚岸をはじめ鎮撫軍に与する同胞と戦うことを意味するのだ。松前藩から示された降伏の条件は、恭順の徴に貢ぎ物と人質を差し出し、首謀者を樺太送りにすること。しかし、この戦いを終わらせるために、国後の人々はさらに大きな犠牲を払わなければならなかった……。民族の誇りのために命を賭したアイヌの思いは報われたのか。そして、江戸幕府の描いた「日本」という国の形とはどのようなものだったのか。蝦夷の地に革命の時代を凝縮させた渾身の歴史超大作、ここに完結。
かくも短き眠り
私が船戸与一の本を読むようになったのは、相棒に紹介してもらった「虹の谷の五月」がきっかけである。2冊目は「メビウスの時の刻」、そして3冊目が本作という訳だ。シチュエーションは、チャウシェスク亡きあとの東欧のルーマニア。「メビウスの時の刻」での複数の一人称に比べれば、本作での1人であるせいか読みやすい。かつて壁崩壊のために戦った裏世界?の戦士、日本人が主人公である。壁崩壊後はミュンヘンの南ドイツ法律事務所に所属。莫大な遺産の相続人を探し、遺産を相続させ手数料をとるのが目的で動いている。今回の相続人はかつてチャウシェスクの親衛隊を勤めていたことを突き止める。チャウシェスク亡きあとは「ドラキュラの息子たち」とよばれ、反政府の殺戮集団として嫌われている。その相続人のもとへ向かう。そしてルーマニアの炭鉱で、主人公のかつてのリーダーが「ドラキュラの息子たち」を集め、ルーマニア、そしてヨーロッパにもう一度戦いの嵐を巻き起こそうと戦力を蓄えているのを見つけた。しかし運なくそのリーダーに捕らわれた主人公。「一緒に戦おう」とリーダーに誘われるものの、ドラキュラの息子たちを統率できてない様をみた主人公は協力を拒否。かつて一緒に戦ったものたち、そしてドラキュラの息子たち、クライマックスで悲劇的な戦いが始まる。期待してたより、クライマックスは内容が薄いかなという印象もあったが、船戸ビギナーの私には満点の作品だ。(2012/02/04)満州国演義1 風の払暁
麻布の名家に生まれながら、それぞれに異なる生き方を選んだ敷島四兄弟。奉天日本領事館の参事館を務める長男・太郎、日本を捨てて満蒙の地で馬賊の長となった次郎、奉天独立守備隊員として愛国心ゆえに関東軍の策謀に関わってゆく三郎、学生という立場に甘んじながら無政府主義に傾倒していく四郎?ふくれあがった欲望は四兄弟のみならず日本を、そして世界を巻き込んでゆく。未曾有のスケールで描かれる、満州クロニクル第一巻。 時代は1928年。
- http://e-tsurezure.blog.so-net.ne.jp/2010-06-12
- http://www.shinchosha.co.jp/shinkan/nami/shoseki/462302.html
- 燃えあがる大地
- 暗雲流れて
- 地を這いずる野火
- 夜の哭声
- 敷島太郎
- 敷島家の長男、30歳、奉天総領事館の参事官で、24歳の妻・桂子と結婚して間もない。桂子は義母真沙子の末妹、という設定が面白い。太郎は外交官であることからも分るように、頭のいい優等生だが、決して強い男ではない。関東軍の独走が国際世論に耐えられないと強い危惧を抱いている外務官僚であるが自分の立場にその無力感を隠せない。彼を取り込もうとするは関東軍特務機関の間垣徳三の狙いは?。
- 敷島次郎
- 太郎の弟、敷島家の次男。彼は18歳の時、新橋でヤクザと喧嘩し片目を失ってしまい、そのまま満州にわたり馬賊・青龍同盟の長として大陸を暴れまわってる。ここでは母国の大陸侵略と関わりなしと颯爽として満州の地を駆けめぐるが?。
- 敷島三郎
- 敷島家の三男、関東軍の奉天独立守備隊の少尉。真面目で武骨な軍人。嫂・桂子に密に思いを寄せているが、桂子はそんなことは少しもしらない。満州という地にいる義弟として接しているだけである。彼は間垣徳三に持ちかけられ張作霖爆殺事件の片棒を担がされる。そして大陸へ?。
- 敷島四郎
- 敷島家の四男、20歳。この巻では、ただ一人、日本本土にいて、自由な演劇を目指し、特高から目をつけられている劇団・燭光座の座員で早大生、ということになっている。学生という立場に甘んじながら無政府主義に傾倒している。彼は特高警察の刑事・奥山貞雄の姦計に嵌められ、絶望の淵に立たされる。
- 敷島義晴
- 長州出身の名家。四兄弟の父、58歳、妻の真沙子は35歳で後添、早々に寡婦となる。四人の名前から分るように、父親は子供たちをさほど可愛がってはいない。ま、当時としてはそれが普通だったのだろうが、太郎、次郎、三郎、四郎とは、あまりにゾンザイ。そんなことだから、真沙子が・・・、いやそれは読んでのお楽しみ。
- 間垣徳蔵
- 四兄弟の前に現れ、無理難題を吹っかけるわけではないが、四人の弱みを握って、結果的に四兄弟を脅す。関東特務機関に属する。ま、これは本当に厭らしい男で、もし身辺にこんな人間がいたら、現代でも絶望せざるを得ないと思う。国士を気取った、所詮はゆすり屋だが軍を背景にしているところが、違う。国のため、と口先だけはいいながら、己の利益しか考えない右翼の典型で、それは現在にも脈々と繋がる暗黒の系譜でもある。なぜ、間垣のような男が敷島家に目をつけたのか、それは謎だ。
満州国演義2 事変の夜
時代は1930年。目次は、
- 陽光のなかの幻影
- 底冷えの季節
- 陽炎の夏
- 九月の爆裂
- 濁流さらに激しく
- 雪風熄まず
- 後記
満州国演義3 群狼の舞
時代は1932年、国際世論を押し切り、新京を国都とする満州国が建国された。関東軍に反目しながらも国家建設にのめりこんでゆく外務官僚の太郎、腹心の部下だった少年と敵対することとなった馬賊の次郎、「憲兵隊の花形」と称されながら殺した人間たちの亡霊に悩まされ続ける三郎、さらなる罪を背負って満州の荒野を流浪する四郎…ついに敷島四兄弟は満州の地に集うが、満州をめぐる人々の欲望はますます膨れ上がり、少しずつ常軌を逸していく。四つの視点で描かれる前代未聞の満州全史、「熱河侵攻」を描く第三巻。【「BOOK」データベースの商品解説】
- 北の残光
- 黄色い宴のあと
- 炎立ちつづき
- 氷点下の町
- 凍える銃弾
満州国演義4 炎の回廊
時代は1934年、脅威を増す抗日連軍、天皇機関説に揺れる帝都、虎視眈々と利を狙う欧米諸国?満州国の混沌が加速するなか、外務官・馬賊・憲兵大尉・武装移民と、別々の道を歩んだはずの敷島四兄弟の運命も重なり、そして捩れてゆく。「二・二六事件」に揺れる満州を描く第四巻。【「BOOK」データベースの商品解説】
- 被弾した明日
- 捩じれゆく大地
- 血溜まりの宿
- 抗日の風と波
- 帝都の戒厳令
満州国演義5 灰塵の暦
時代は1936年、満州事変から六年。理想を捨てた太郎は満州国国務院で地位を固め、憲兵隊で活躍する三郎は待望の長男を得、記者となった四郎は初の戦場取材に臨む。そして、特務機関の下で働く次郎を悲劇が襲った?四兄弟が人生の岐路に立つとき、満州国の命運を大きく揺るがす事件が起きる。読者を「南京事件」へと誘う第五巻。【「BOOK」データベースの商品解説】
- 再会の夜
- 北東の砲声
- 河畔の影
- 血塗られた高原
- 雪原の死
満州国演義6 大地の牙
第5巻が出版されて2年余りが経過した。この間に目先を変えた『新・雨月』を上梓したものの、どうなっているかと心配していたが、なるほど、これだけの豊富な素材を緻密に組み立てるにはそれだけの時間が必要だったのだと思わせる、期待を裏切らない第6巻だ。時代は1938年、国難に直面したとき、人々が熱望するのはファシズム。昭和十三年、日中戦争が泥沼化する中、極東ソ連軍が南下。石原莞爾の夢が破れ、甘粕正彦が暗躍する満州に、大国の脅威が立ちはだかる?“大戦前夜”の満州を描く、入魂の書下ろし七五〇枚。【「BOOK」データベースの商品解説】
- 再会の夜
- 北東の砲声
- 河畔の影
- 血塗られた高原
- 雪原の死
満州国演義7 雷の波涛
昭和16年、ナチス・ドイツによるソビエト連邦奇襲攻撃作戦が実施された。ドイツに呼応して日米開戦に踏み切るか、南進論を中断させて回避するか…。「マレー進攻」から太平洋戦争開戦までを描く第7巻。【「TRC MARC」の商品解説】
- 戦雲なびく彼方
- 歩み寄って来る葦音
- 漂流の行方
- 発熱する午後
- 深夜疾風のごとく